風の回旋曲 7







目を開けると、見慣れぬ 白い 天井。

窓から入ってくる光は、朝の それだろうか…。


「どこだ?…ここ…」


取り敢えず、ベッドに寝かされているのは分かる。

横になったまま、視線を巡らせてみれば、


「わっ」


あ、頭…?


ベッドの右側、枕の すぐ横に、黒髪が 揺れていた。


「ロイ…」


ずっと、側に いてくれたのだろうか。

床に膝をつき、ベッドに突っ伏して 寝ている ロイ。


極力 ベッドを揺らさないように ゆっくりと、身体を起こす。

見渡せば、そこは どこか 宿のようで、

自分のいるベッドの隣には もう一つ、メイキングされ、

少しも乱れていない ベッドがあった。


「風邪 ひいたら どうすんのさ…」


眠るロイの髪に 指を絡ませ、さわさわと 揺らしてやる。


「ロイ」


起こしたら かわいそうかとも 思ったが、

取り敢えず 今の状況を聞きたかった。


ここは どこで、どうして ここにいるのか。

あれから どれくらいの時間が過ぎたのか。

俺は、俺の所属は、今現在どうなっているのか…。


ふと 見つけた 時計は、もうすぐ午前7時を 指そうとしていた。










  ※   ※   ※










ゆっくりと 目を開いたロイは、

俺を認めるなり、抱き締めてきた。


「ちょっ…ロイ?苦し…っ」

、よかった…」


ぎゅうぎゅうと 抱き締められて、かなり心配させてしまったようだと 気付く。


「ごめん、ロイ。もう、大丈夫 だから。」


そっと、ロイの背中に手を回し、抱き締め返す。

そうしたら、何故か嬉しくなって、ぎゅうっと、抱きついてしまった。


…」

「え?わっ」


抱きついたまま、押し倒された。


「ロイ!」

が しがみついてくるのが 悪い。」

「え…」

「何日、お預けを食らってると思ってるんだ?」

「あ…」


そんな、我慢させるくらい 何日も 経ってしまっているのか…

と、思っていたら、つ と、ロイが 俺から離れた。


「え…ロイ?」

「ん?」

「しないの?」

「しないよ。まだ、身体が 安定していないだろう?」


言われてみれば、だるい気もする。


「落ち着いたら、ね。その時は 手加減なんて、できそうにない な。」

「勘弁してください…」


ストッパーのない ロイの相手なんて!と青くなったら、

声を立てて 笑われた。









  ※   ※   ※










それから、色々 話をして。

俺は、あの日の事を、あまり良くは覚えていなかった。


「ごめん。手がかりになりそうなことは、何も…」

「構わないさ。その記憶が を苦しめるなら、そんな記憶は なくていい。」


ぽんぽん と、頭を撫でられる。


「…ありがとう、ロイ。」


そう言うと、ロイは 笑って、私はが好きだからな、と言った。


「ところで、は これからどうする?休暇は まだ残っているが…」


言外に、一緒に一度 東方に戻ろう、と言われているのがわかる。

わかる けれど…


「仕事に、戻るよ。軍法会議所、今 とっても忙しいんだ。」

「軍に戻って…大丈夫なのか…?」


軍に戻れば、きっと 色々聞かれるだろう。

でも、やりかけの仕事だってある、書かなきゃいけない報告書も残ってる。

それに…


「ヒューズ先輩の、意志を 継ぎたいから」

?」

「俺は、ロイの下について、助力したい。」

「それは…」

「ヒューズ先輩…いや、ヒューズ准将からの伝言。『さっさと 上に行け』って。」

「え…」

「そのために、俺が協力したい。ヒューズ先輩ほど、力にならないかも 知れないけど…」


だめか?と 問えば、


…」


ロイは ゆっくりと 首を横に振り、俺を抱き締めた。

耳元で、小さく  ありがとう、と言う声が 聞こえた。









  ※   ※   ※










「じゃあ、また。」

「ああ、また。」


駅のホームで、汽車に乗り込んだロイを見送る。


「すぐ、こっちに 来るんだろ?」

「ああ。もうすぐ移動命令が出る。」

「待ってる。」




呼ばれて、何?と 顔を近づけたら、


「愛してるよ」


と 囁かれた。


「っっ…!! 」

「そんなに 照れなくても いいじゃないか。」

「もぅ…」


ピイィっと、発車を知らせる 警笛。


「気をつけて。」

「ああ、ありがとう。」


動き出した汽車を、敬礼をして 見送る。


「待ってる からな…」


ホームを出て、遠ざかっていく汽車。

腕を下ろし、しばらく休んでしまっていた職場に向かうべく、踵を返した。






ゆるり と 吹いた風が、俺の頬を 撫でていった。



















〜End〜




あとがき

突発 大佐夢、いかがでしたでしょうか。
期間終了前日に、更新する奴が どこにいる。
って感じですね…。たはは…。
(ここに います!とか言ったら、怒られるんでしょうね、やっぱり。)

タイトルの『回旋曲』は、“ロンド”の意味です。



[Back]

ブラウザ閉じて お戻り下さい。