風の無い、暖かい午後だった。
ヒューズの墓の前に来ると は、
グレイシアにあった時と同じような反応を示した。
…まだ、ここに来るのは 早かったか…。
苦しむを 落ち着かせようと 手を伸ばしかけた、その時。
強い風が、私と の間を通り抜けた。今まで 風などなかったのに…。
「手を、出すなと 言うことか…?」
目をやった先、真新しい 墓石。
呟いた言葉に 答えるように、ゆるり と 風が頬を撫ぜた。
※ ※ ※
しばらく成り行きを見守っていると、突然 かくん、と が 崩れ落ちた。
慌てて駆け寄り、抱き止める。
「!?」
覗き込めば、すぅ と 安定した呼吸が聞こえる。
取り敢えず 何かのショック症状では なさそうだが…
と、ふと どこからか 声が 聞こえた気がして。
「………ヒューズ…?」
ふわ、と 額に ほの温かい、感触。
風が 前髪を 揺らしたせいだろうか…。
温かい 水が 頬を伝う。
都合の良い想像かもしれない。
そうかも 知れないけれど…
『は もう大丈夫だ。ロイ…お前も きっと…幸せに…』
私は 確かに、ヒューズの声が、そう言ったのを 聞いた。
※ ※ ※
目を覚まさない。この状態で 東方に帰るわけにもいかず、
宿を取り、勤務中であろう ホークアイ中尉に電話をした。
「明日の午前の汽車で戻る。ああ。すまない。」
幸い、締め切りの迫った書類はなく、の ことなら と、
明日の遅刻の理解を得た。
上に許可を取る必要は…ありそうだが まあ いいだろう。
ベッドに寝かせたは、すうすうと 寝息を立てて 眠り続けている。
「は…ヒューズに 会えたのか?」
ベッドサイドに近づき、の髪を梳きながら、
返答を求めるものではない 質問をする。
穏やかな その寝顔に、
あの声は 都合の良い幻聴ではなかったのかもしれない と、
思えてしまう 自分に 苦笑する。
「私も まだまだ、自分に甘いな。なぁ、ヒューズ?」
ひとりごちて、しかし それは、彼に届こうとするかのように、大気に溶けていく。
空気が ゆるり と、揺れた気がした。