告白
こんなにも残酷な告白があるだろうか…
夜、海上に停泊中の船の上は静かだった。
あまりにも静かだったから、無性に悲しくなって、一度そう思ったら、悲しくて悲しくて、涙がでた。
涙は、つつと流れて、滴っていった。
それは突然だった。
その告白は…突然だった。
流れた涙に濡れた頬を、乾いた手が、そっと拭って離れた。
「俺が泣いてんのは、お前のせいじゃねぇよ。己惚れんなよな。」
そうだ、俺はこいつの言葉に泣いてるんじゃない。
「静かだったから、なんか悲しくなったんだ。」
言い訳じゃない。
言い訳なんて必要ない。
俺は…俺は、こいつのことなんて何とも思っちゃいねぇ…
身体の関係はあったさ。でも、それは船の上じゃ精々自己処理しか出来ないから、
解消の為に仕方なくであって、然したる意味は持っていなかった。
特定の感情なんてなかった……はずなのに……
「泣くなよ…サンジ…」
困り果てた顔で、それでも特に慌てた風もなく、そっと抱き寄せるその腕に、俺は大人しく従った。
「泣くな…。」
それは、突然だった。
その告白は…突然だったんだ…。
『明日島に着いたら、俺は…この船を下りる』
静まり返った夜の甲板で、唐突に告げられた、それ。
瞬間、何を言われたのか、分からなかった。
思考が、理解することを拒んだ結果だろうか。
『鷹の目の所に、行ってくる』
やっと動き出した思考回路は…ただ働きを回復しただけで、役に立っちゃくれなかった。
『決着つけに行く前に、伝えておきてぇことが…あるんだ』
『好きだ。サンジ』
『忘れてくれて構わねぇ。ただ、伝えておきたかっただけだ。』
黙ったままの俺の反応を拒否と取ったのか、返答を求めようともしない。
俺は暫くの間、何も言えずに…突っ立ってた。
ただ突っ立て、静かだなぁって、それだけ思った。
それだけ思ったら…俺は泣いてた…。
「サンジ…サンジ……」
抱き締められたまま、ゾロの声を聞く。
滅多に呼んだことないくせに…そんな風に呼ぶんじゃねぇよ…。
俺の涙は止まらなかった。
耳元に響くその声が心地良くて…
いつの間に、って感じだ。こんな奴…だってマリモだぜ?
ただ都合がいいから…それだけだったのに。
いつの間にこんなことになったんだか…。
自覚しちまった。しかも自覚した瞬間にサヨナラの覚悟しろってかよ。
それが悲しいなんて…あーぁ、情けねぇ。
「泣き止めよ…なぁ…サンジ。…泣き止まねぇと、キスすんぞコラ。」
穏やかに言われたそのセリフに、
「んなっ!何だよそれっ!!…泣いてんの関係ねぇしっ!!」
思わず口走っちまった言葉に、
「あ?」
何を言われたんだか理解していない顔をしたから。
内心失笑してやって、俺は言葉を続けてやることにした。
「したけりゃしろっつてんだバーカっ」
「………」
照れ隠しだ。わざと小馬鹿にしたような口調で言ってやったら、
一瞬、吃驚したように固まって、そのあとちょッとムッとした顔になった。
いささか怒ったような表情のまま、それでもゆっくりと近づいてきたゾロの唇を、
静かに受け入れてやる。
「前言撤回だ、サンジ。さっき言った事、忘れんな。」
「はっ、上等だぜ、一生覚えててやらぁ」
涙は止まらなかったけど、笑ってやれた。
ゾロも笑って、ぎゅって、抱き締めてくれて。
暫くそのまま、笑いあってた。
抱き合ったまま笑って、俺の涙も止まった頃、
「俺は何も聞いてないんだがな」
ふと、ゾロが拗ねたように言った。なんだか可愛くて、
「言わせてぇのかよ」
意地悪く言ってやると、
「あぁ、聴きてぇなぁ。」
突っぱねるかと思いきや、穏やかに笑って認めるから。
ちょっとだけ、赤くなっちまった。
「俺も…好きだよ。ゾロ…」
「あぁ。ありがとう、サンジ。」
心臓が止まるかと思った。
なんて顔すんだよ…
ゾロは、今まで見たこともねぇくらい、嬉しそうに笑っていやがった。
ったく、どうしようもねぇアホだ…
ま、俺もだけど。
抱き合ってた腕を解いて、船の手摺りに寄っかかる。
風が抜けていった。
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