ヒューズからの あの電話の後、中央から 正式な連絡が入った。
告げられたのは、ヒューズの殉職と、の重体。
詳しい状況については、まだ 何も分かっていないという。
「明朝一番の列車で中央へ向かう!ホークアイ中尉、ハボック少尉、同行しろ。」
「了解」
突きつけられたのは、受け止め難い現実。
いっそ 夢であってくれ、と 思わずにはいられない……現実。
※ ※ ※
病室の 白いベッドに 眠る。
左の前肩、かろうじて急所を外した場所を 貫通した銃弾。
即死は免れたものの、その失血量は決して少なくなく、
は まだ一度も 目を覚ましていないと言う。
「また、明日の夕方に来るよ、…」
その額にキスを落とし、病室を出た。
※ ※ ※
その後、二日経っても は目を覚まさず、中央に来て 三日が経った。
ヒューズの葬儀も終わり、明日には東方に帰らなくてはならない という夕方。
「!」
病室を訪ねると、が ベッドの上に起き上がっていた。
駆け寄って、抱き締める。
「…よかった。怪我の具合は…」
そこまで言いかけて、気付いた。
「…?」
彼の目に、光が宿って いないことに…。
「あ…」
私という存在は認めたのか、の口から 小さな声が零れた。
私を 私として、ロイ・マスタングとして認識したかは…定かでは ないけれど…。
医者が言うには、どうにも 心的なものらしい。
ヒューズか 同僚、どちらかの、いや、もしかしたら両方の、かもしれないが、
その死を、目の当たりにしてしまったのだろう。
は 今、心を 閉ざしている。
※ ※ ※
翌日、東方に帰る前に、中尉と少尉を連れて 病室に寄った。
受付を通り過ぎる時 看護婦に、先ほどグレイシアも来たところだ、と告げられた。
「グレイシアさん…大丈夫なんスかね?」
少尉が、ぽつりと 呟いた。
そこには、最愛の夫を亡くした 彼女への心配が込められているのだろうが…
「彼女は、気丈な人だよ。ハボック少尉」
がいる部屋のある階に着く。
午後の比較的静かな病院の廊下を歩いていくと、
ガシャン、と 何かが割れる 音がした。
「さんの病室じゃないっスか!?」
「まさか…」
何かあったのだろうか。
廊下は走るな、という決まりは 気付かなかったことにして、
のいる病室まで、残り数メートルを走る。
「!?」
ノックもなしに 病室に駆け込むと、
「あ…あ…あああっっ」
は、ベッドの上で 何かに怯えるように、両手で頭を抱えていた。
大きく見開かれた目。光を宿さない 瞳。
ベッドの傍らでは、グレイシアが 驚きに硬直している。
その足元には、割れた 花瓶。
「さん!! 」
少尉がに駆け寄る。
「中尉、グレイシア夫人を、お願いできるか?」
「はい。」
中尉が グレイシアを連れ 病室を出ようとした、その時。
ぱしん!という音が部屋に響いた。
「い…つっ」
見れば、が、彼を落ち着かせる為に伸ばされた少尉の手を 振り払っていて。
「…さん?」
そして…
「っ…!?」
は、ベッドを降りると、
数メートルの距離を よろけながら走り、私に しがみついた。
「ふ…う…」
ぽろぽろと、涙を零しながら、
ぎっちりと、服の上からでも痛みを感じるほどに しっかりと、
しがみついてくる 。
そんな彼を、ただ 抱きとめてやることしか できない。
こんな時…お前なら、もっとマシな やり方が できるんだろうな、ヒューズ…。
※ ※ ※
上に掛け合って、の長期休暇を もぎ取った。
あの状態のを、軍も 持て余したのだろう。
簡単とまではいかなかったが、さほどの時間を取らずに、その許可は下りた。
しかし、それだから、早めに回復しなければ は軍を辞めざるを得なくなる。
正確には、一方的に 辞めさせられるのだが。
「その方が、いいのかも知れんな…。」
いっそ 遠ざけてしまった方が、を苦しめなくて 済むのかもしれない。
「」
は 今、東方の私の家にいる。
あのグレイシアとの一件の後、他人に怯えるようになってしまったを、
療養と称し、連れ帰った。
あの時…グレイシアと 何があったのか…
彼女にも、心当たりはない と言う。
「あ…」
今のを 再び中央に連れて行くことは、少々酷だろうか…。
が ここへ来て二週間。
彼の瞳に 光が宿ることはなかったが、それでも、
病院にいた時より 安定しているのだけは わかる。
けれど、いつまでもこのまま というわけには 行くまい。
「おいで。出掛けよう。」
一ヶ月ぶりの休暇に 私は、と中央に行く予定を入れた。
ヒューズの墓参りに、を連れて行く。
これが、吉と出るか 凶と出るか。
それは…次第。