暗い。
ただ ただ 暗い、その空間に、
俺は 独り いる。
いない。
誰も、ここには いない。
最後に聞いたのは…何だっけ。
最後に見たのは…
考えると頭が痛い。
考えちゃ…いけない。
悲しい とか、 寂しい とか、
そんなことは もう どうでもいい。
ただ、つらい。
何でだろう。とても 辛い。
それが 知りたい。
なぜ…俺は こんなに 辛く思っているのか。
でも…考えるのは……怖い…。
※ ※ ※
声…?
誰?
どこからか、聞こえてくる。
『』
それは…俺の 名前。
それを呼ぶ人が……いる。
ずっと 側に いる。
………あれは…誰?
誰の…声?
ねぇ…あなたは…誰?
※ ※ ※
いつも 聞こえてくる その声に、いつしか 心地良さすら覚えながら。
暗い、誰もいない空間を 一人 漂う。
地面が無くても不安定じゃない。壁が無くても広すぎる不安定さはない。
ただ ひたすら 暗いだけの その空間を、ゆったりと 流れる。
だんだん、何も わからなくなっていく。
思い出す記憶も この闇に溶けた。
わかっているのは、俺の 名前。
いつも、あの声が それを呼ぶから…
それだけは 覚えてる。
平穏だった。
それでよかった。
もう、つらいことなど なかった。
この先も、ないはず だったのに…
嫌だ!嫌だ、何?
俺に、記憶を戻そうとする、それ。
誰もいないはずの ここに、 女の人が、ふと 現れた。
誰?
知らない。
俺は 知らない!
嫌だ!
嫌だ!!
フラッシュバック
突きつけられる ヴィジョン
笑う
女の人
飛び散る 赤
それは 誰の………
「嫌だあああああっっ」
ガシャン と、何かが 割れたような音がして、
その女の人は 消えた。
空間は また 闇に戻る。
やめて。嫌だ。思い出したくない。
せっかく 忘れたのに…考えなくていいと 思ってたのに!!
壊れる。 壊れてしまう。
一瞬 戻ってきた記憶は、
津波のように 押し寄せて、俺を侵食していく。
『!』
少し遠くに 聞こえる 声。
少しして、肩の辺りに触れた熱が 怖くて、咄嗟に 逃げた。
逃げて、逃げ場を探して、闇の中に一点、光を 見つけた。
必死で走りついた そこは、とても 暖かくて。
俺は、安心できる場所を 見つけた。
それから その光は、いつも側にあって。
少し離れた所にあったとしても、その光があるだけで、俺は安心した。
俺を呼ぶ その声は、俺を安定させる。
記憶は また、ぐすぐすと 溶けていき、闇と 一点の光が、世界を構成した。