風の回旋曲 4





闇の中に、いつもと違う光があった。

ぽつん と 浮かぶそれは、俺に恐怖を覚えさせるものではなく、

俺は、いつもの光を離れ、そっちに 近づいた。


引き寄せられるように 手を伸ばす。

つと 指先が それに触れた、と思ったら、それは 形を変え、人の姿に なった。


「っあ…」


それは また、俺の記憶を 呼び戻そうとするもので。


嫌だ…何で…っっ


そこから 逃げるように、俺は 光を 求めた。


「それは、逃げ込むための 場所じゃないぞ。」

「え…」

「それを 逃げ場にしちゃ だめだ。」


走りかけた俺に その人は、そう…言った。


「こんなところで、何してるんだ?」


ゆっくりと 近付いて来る、その人。


「やだ…来ないで……っ」

「ひでぇな。俺のこと、もう 忘れちまったか?」

「忘れていたい!お願いだから 忘れさせてよ!! もう、俺は 何も 思い出したくない!」


嫌だ。嫌だ!つらい!苦しい!


「そりゃぁ…寂しいなぁ…」


叫んだ俺に、彼は 苦笑して 呟いた。


「俺ぁ 死んじまったからさ。覚えててもらわんと 消えちまうんだが…」

「え…。あ…痛っっ」


頭痛が…する。

死んでしまった人?

誰が?

彼が?


目の前の この人は…誰?


「っ…ぅあぁっっ!い…やだ…嫌だ!痛い!! いた…いっ」


流れる ヴィジョン

押し寄せてくる 記憶。


「あ…あ…っ」



























目の前に広がる  それは…





「ああああああああっっ」





身体が 覚えている  温かさ


鉄の…臭い。





赤い 赤い 血が  流れる…。





割れそうなほどの 頭の痛み。

知ってる。

俺は 知ってる。

彼の死を。


この目で  見た……。



「ぅ…ぁ…っっ…ぁ」



知りたかった つらさの理由。

忘れたかった 記憶。


身体の内側と 外側から 押し寄せてくる圧迫感に、

俺の意思とは関係なく  涙が  ぼろぼろと溢れる。


耐え切れず、俺は  きつく 目を閉じた。









ふわり と 包まれる 感触。

大きな手に、背中を 撫でられる。





ふっ と、身体が 楽になった。


。そんなに 苦しまないでくれ。」


ゆっくり 何度も背中を撫でる その手は、とても暖かく、

俺は、そっと 目を開けた。




「…ヒューズ…先輩…」


思い出した。全部。

俺は…あの時 見た すべてを否定する為に、この闇に 身を委ねたのだ…。


「ご…めんなさい…俺…」

「落ち着いたか?」

「…はい。」

「よし。」


にっと笑って、彼は 俺の頭を ぽん、と叩く。


「ヒューズ先輩…」

「ん?」

「何で…ここに?」


俺しか いないはずの この闇に、どうして…


「呼ばれたからさ」

「呼ばれた?」


誰に?俺に? それとも…


「そう、呼ばれちゃったの。何か、来なきゃいけねぇ 気がした。」


緩く 抱き締められたまま、穏やかな声を聞く。


「なぁ、。お前、どうして こんな所にいる?」

「俺…は……」








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